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コラム:メイ英首相の続投が招く「災難」
June 13, 2017 / 2:00 AM / 5 months ago

コラム:メイ英首相の続投が招く「災難」

[9日 ロイター] - 8日の総選挙における劇的な惨敗にもかかわらず、英国のメイ首相は続投する覚悟と見受けられる。短期的には、それも可能だろう。だが長期的には、英国にとって破滅的な結果をもたらしかねない。

 6月9日、総選挙における劇的な惨敗にもかかわらず、英国のメイ首相(写真)は続投する覚悟と見受けられる。長期的には、英国にとって破滅的な結果をもたらしかねない。英ソニングで11日撮影(2017年 ロイター/Stefan Wermuth)

英国の欧州連合(EU)離脱に関する交渉は、19日に始まる予定だ。予想外の総選挙結果を受け、メイ首相が辞任し、与党保守党に新たな指導者が誕生すると予想する向きが多かった。欧州の指導者たちは、もし野党労働党が勝利すれば離脱交渉の日程を再検討する用意があることをすでに示唆していたが、今回の選挙結果を受けて、同様の見直しをする意思はあっただろう。

だがメイ首相は、このまま脱退交渉を押し進める構えだ。これは、いかなる合意の形成も不可能にさせるような、有害な構図といえる。

選挙戦中、メイ首相は、労働党が最多議席を獲得すれば「カオス連立政権」が生まれると警告してきた。だがその首相が、恥知らずな素早さで北アイルランドのプロテスタント系民主統一党(DUP)と組むことで合意し、議会でわずかに過半数を超える議席数を確保する道を選んだ。現実主義的な政治理論を唱えたマキャベリ的な鮮やかな行動で、少なくとも今は、メイ首相の地位は驚くほど安泰に見える。

ダウニング街にいる首相の最側近を除けば、現在、メイ氏の続投が正しい選択だと本当に考えている人は、少ないだろう。だがそれは問題にならない。選挙期間中、首相は、時に「とても難しい女」になることを誇りに思っていると語っていた。当時は、欧州との交渉力をアピールするための発言だった。今彼女は、党内外を問わず、来る者すべてを威圧しようとしている。

これは民主主義への侮辱のように感じられるかも知れないが、事実は、首相はいまだに英国の最大政党の党首であり、支持してくれる思想的な盟友もある。首相が組閣した政府は、急激に左寄りにシフトした有権者からこれ以上ないほどかけ離れている。だがメイ首相が気にする気配はない。

与党保守党内に、メイ首相を引きずり下したいと考える勢力は少なくない。選挙結果が明らかになりつつあった段階から、こうした勢力はメディアに対して怒り混じりに見解を述べてきた。誰かが首相に交代を挑む可能性はある。だがそれが不可避と呼ぶには程遠い。

そうした可能性が最も高かったジョージ・オズボーン元財務相は、今回の選挙を機に議員を辞め、現在はイブニング・スタンダード紙の編集長を務めている。他に首相のライバルとなり得るフィリップ・ハモンド財務相は留任し、選挙の前後を通して、公の場では多くを語っていない。

メルケル独首相のスタッフは9日の段階で、選挙結果についてのコメントを避けた。だがメイ氏は、欧州大陸の同盟国と他に類を見ないほど敵対的な関係を築く方向に動く可能性が高そうだ。

メルケル首相とマクロン仏大統領は、極右勢力や、とりわけトランプ米大統領に対する対立的な立場を確立しつつある。対照的にメイ首相は、大っぴらにトランプ氏と親しく振る舞い、今回の選挙戦では反EUの立場を取る独立党の支持層を取り込もうとした。

メイ首相は、選挙前に選んだEU離脱交渉チームを維持する考えとみられる。欧州懐疑主義者で好戦的なデービッド・デービスEU離脱担当相を筆頭に、リアム・フォックス国際貿易相や、ボリス・ジョンソン外相が含まれる。これ以上に、交渉相手と不必要に敵対的な関係を築きそうな陣容を想像するのは難しい。

さらにメイ首相は、DUPの意向も考慮しなければならなくなる。DUPは、右寄りで反EUの傾向があるキリスト教系政党だが、EUの資金が北アイルランドに流れ続けることを望んでいる。メイ氏が首相の地位を維持できるかはDUPの支持次第であり、EU離脱交渉を一段と複雑にする要因となる。

メイ首相は意図的に「ブレグジット」が何を意味するかを曖昧にしてきたが、英国では一般的に、首相は欧州と英国の間の移動の自由と移民の問題の再交渉を目指していると受け止められている。こうした「ハード」な離脱は、欧州統一市場からの脱退という、極めて困難な経済的代償を英国に強いることになりそうだ。

6月8日の総選挙で、有権者はその見通しに気乗りしない様子を示した。だがメイ首相は、いずれにしてもその道を突き進みそうだ。しかし、欧州各国から支持は得られない可能性が高い。実際、欧州諸国には、交渉が不調に終わるよう行動するだけの理由がありそうだ。欧州は、メンバー国のEU離脱には冷たい態度だし、欧州官僚の英国に対する忍耐も限界に近づいていた。

英国には、まだ交渉材料がある。例えば英国は、北大西洋条約機構(NATO)の枠組みにおける欧州防衛では今も主要国の1つだ。トランプ時代になってもろ刃の剣となる要素が増したとはいえ、米国との関係は今も重要だ。ただ、弱い指導者との関係を嫌がることで知られるトランプ大統領が、今後のメイ首相をどう見るかも、不透明だ。

メイ氏が保守党党首の座を誰かに譲れば、こうした問題の全てが解決するという訳ではない。確率は低いが、労働党のジェレミー・コービン党首が、他の進歩系政党と緩い連立を築くことに成功して政権を取ったとしても、状況は同じかも知れない。だがこうした問題はすべて、メイ氏がその地位に留まることでより悪化する。

もちろん、うまくいくこともあり得る。メイ首相が成功裏にブレグジットを、それが何であれ、達成し、権力を維持したまま、失われた信頼を回復することも想像できる。

だがそうならなければ、メイ首相と保守党は長い間、この国から許しを得られないだろう。

*筆者はロイターのコラムニスト。元ロイターの防衛担当記者で、現在はシンクタンク「Project for Study of the 21st Century(PS21)」を立ち上げ、理事を務める。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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