October 11, 2012 / 4:57 AM / 7 years ago

コラム:「タブレット戦国時代」生き抜くキンドルの進化

ユーザーであろうがなかろうが、米アマゾン・ドット・コムの端末「キンドル」は尊敬に値する。デジタル業界は、たとえ素晴らしい製品でも、それを上回る製品が登場すれば淘汰されるという「ダーウィンの進化論」が当てはまる時代にあるが、キンドルは電子書籍端末から、タブレット市場でシェアを獲得するマルチメディア機器にまで進化を遂げた。

10月4日、「ダーウィンの進化論」が当てはまるデジタル業界だが、アマゾンのキンドルは電子書籍端末から、タブレット市場でシェアを獲得するマルチメディア機器にまで進化を遂げた。写真はベゾスCEO。9月撮影(2012年 ロイター/GUS RUELAS)

純粋に機能を追求したキンドルに華やかさはない。米アップルのタブレット端末「iPad(アイパッド)」が持つような魅力にも欠ける。2007年に399ドルで発売された時は5時間で売り切れたが、当時は、本好きだけに受けるニッチ市場だと懐疑的にみる向きもあった。しかしやがて、キンドルはそうした見方は間違っていたことを証明してみせた。

独自の電子書籍アプリを備えたiPadが発売された時も、こうした懐疑的な見方が間違いであることを証明した。アマゾンがiPad向けに提供した電子書籍アプリの出来があまりに良かったため、ハードとしてのキンドルはお払い箱となり、アマゾンはiPadや他のタブレット向けアプリで生きていくと考える人もいた。

しかし、実際にはお払い箱になるどころか、アマゾンが開発した目にやさしい白黒の電子インクや、69ドルまで値下げした価格戦略も奏功し、キンドルの売り上げは好調を維持した。

アップルが四半期ごとにiPhone(アイフォーン)やiPadの販売台数を誇らしげに公表しているのに対し、アマゾンはキンドルの具体的な販売台数を明らかにしていない。しかし、その成功のほどは、空港の搭乗待合室や大都市の交通機関に足を運べば一目瞭然だ。ちまたにはキンドルがあふれている。

今度、キンドルで読書している人を見かけたら、紙の本の方が好きかたずねてみてほしい。中にはそうだと答える人もいるだろうが、読者は物語に入り込んでしまえば、紙の本とキンドルの違いを感じなくなる。

10年前、iPod(アイポッド)はデジタル音楽市場にやや出遅れて登場したものの、市場を独占。iPodを中心にスピーカーや付属品といった「エコシステム(生態系)」が発達した。その後、音楽の作り手であるミュージシャン、レコード会社などを巻き込み、エコシステムは拡大していった。

私の理解では、エコシステムとは人々が会社や製品を通して互いに支え合うコミュニティーを意味する。消費者だけでなく、時として競合他社さえもエコシステムの一員なのだ。

アップルは成熟したエコシステムを持つ典型的なお手本だ。私はアマゾンが1カ月前に新型のキンドルやタブレットを発表した時、同社のエコシステムについても考えるようになった。当時、マイケル・カーニー氏は「新型のキンドルやタブレットには親しみやすさと値ごろ感があり、それらがアマゾンのエコシステムにのめり込む入門薬物であることに気づくまで、そう時間はかからないだろう」と書いていた。

では、「タブレット戦国時代」とも言える今、リサーチ・イン・モーション(RIM)やマイクロソフト、デル、モトローラといった経験豊かなメーカーがヒット商品を出せずにいる一方、アマゾンはいかにして独自のエコシステムを発達させたのだろうか。米国で5人に1人がタブレットを所有するようになった現在、キンドルはなぜ売れ続けているのか。

その答えは至って簡単だ。アマゾンが数十年を費やして「キンドル・エコシステム」を築き上げてきたからだ。

RIMやマイクロソフトがアプリ開発者の気を引こうとアップルやグーグルとし烈な戦いを繰り広げる中、アマゾンは出版という伝統的な事業でコンテンツの充実に注力してきた。インターネットが普及しても、出版市場の規模は巨大だ。アマゾンは、消費者の本に対する情熱を、自社ブランドへの忠誠心に移行させることに成功したのだ。

とはいえ、書籍は、成長著しいデジタルコンテンツ産業の一部に過ぎない。アマゾンは年会費79ドルのプライムサービスといった制度で顧客をより広範なエコシステムへと誘い込んでいる。デジタル音楽市場は長いことアップルの優位に変わりはないが、デジタルビデオ市場はまだどの企業にも独占されていない。

アマゾンのタブレット「キンドル・ファイア」が、キンドルのように何年にもわたりヒットするかはまだ分からない。しかし、低価格に加え、顧客の忠誠心と成熟したエコシステムによる豊富なコンテンツの融合により、滑り出しは力強いものとなっている。

自社の低価格タブレットで対抗しようとしているハードメーカーは、自分たちはうまくいかないのに、なぜアマゾンは成功を手にできたのか思いをめぐらすかもしれない。

耳が痛いかもしれないが、その答えは至極簡単。エコシステムだ。

(4日 ロイター)

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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