企業が脱炭素化に取り組む中、炭素クレジットは温室効果ガス排出量の大規模な相殺に貢献する、柔軟かつ即効性のある重要なメカニズムとなっています。
「炭素クレジットとボランタリー炭素市場によって、企業は現時点では回避できない排出量を相殺し、今すぐにでも効果を発揮することができます」と、シェル社の炭素・環境プロダクト製品部門ゼネラルマネージャーであるニック・オズボーン氏は言います。
炭素クレジットは排出回避策や削減策の代替として捉えられるべきではありませんが、パリ協定の目標を達成するために世界が脱炭素化を進める上で不可欠な手段です。多くの企業にとって、炭素クレジットは他の手段では削減できない排出量をオフセット(相殺)するための必要なツールとなるでしょう。
国際金融協会(IIF)がスポンサーとなり、マッキンゼーが知識面でのサポートを行う「ボランタリー炭素市場の拡大に関するタスクフォース(TSVCM)」の推計によると、炭素クレジットの需要は2030年までに15倍以上、2050年までに最大100倍に拡大することが予測されています。全体として、2030年には炭素クレジット市場は500億ドル以上の規模になる可能性があります。[1]
しかし近年、ボランタリー炭素市場(VCM)の成長は鈍化し、市場への信頼の危機につながる論争で揺れました。
2024年、世界の炭素クレジット市場は14億米ドル前後で停滞しました。炭素クレジットの償却、あるいはクレジット需要は2023年の数値とほぼ横ばいでしたが、平均スポット価格は20%下落しました。[2]
信頼の重要性
VCMの最も困難な側面のひとつは、この市場が断片的であり、統一された世界基準に準拠する必要がないという点です。
国際排出量取引協会(IETA)のボランタリー炭素市場担当マネージングディレクターのアンドレア・エイブラハムズ氏は、このことが3つのレベルの懸念につながると指摘します。
「クレジットが正当であるかという信頼性への懸念、クレジットの利用への懸念、そして市場の評判に影響を及ぼす法的要求への課題です」とエイブラハムズ氏は説明します。「売り手が高品質の炭素クレジットであると主張した場合、クレジットの利用方法や契約内容に関しても信頼できなくてはなりません」。
オズボーン氏も、認証基準はこの部門の信頼性を確保する上で重要であると同意します。「炭素クレジットに、主張されている価値と影響力があることを確信できなければなりません」。
市場における品質保証のレイヤーを把握することは、最も基本的なステップのひとつです。
プログラム、プロジェクト、方法論の各レベルには、VerraやGold Standardのような国際基準設定機関があり、炭素クレジットプロジェクトの品質を保証するための規定や要件、監査手順を定めています。
さらに過去数年間で、炭素プロジェクトの信頼性への懸念に対処するため、複数のイニシアティブが創設されました。ボランタリー炭素市場のための信頼性評議会(ICVCM)は、最高位の方法論レベルの評価に重点を置く、非営利の独立ガバナンス機関です。2023年、同評議会は「コアカーボン原則」を発表しました。これは、炭素クレジットの信頼性を高めるために必要な要件を定義する10の原則であり、ガバナンス、排出影響、持続可能な開発に重点を置いています。
航空業界では、国連機関が「国際航空のためのカーボン・オフセットおよび削減スキーム(CORSIA)」を策定しました。国際航空による排出量が2019年の水準を超える場合、その超過分を相殺することを目的としています。国際民間航空機関(ICAO)は、同機関の環境保全性を確保するため、適格排出単位の基準を策定しました。このような単位は、追加性、永続性、正確な定量化、追跡、監査などの要件を含む、厳格な環境基準を満たさなければなりません。これらの原則は、既存の取引メカニズムやカーボン・オフセット認証基準に準拠しています。
また、Verraは、発行する炭素クレジットの信頼性を高めるために、多数の方法論の強化に取り組んできました。
近年は、少数ながら炭素プロジェクトの格付け機関も発足しています。炭素クレジット格付け機関であるCalyx Global社の共同創設者、ドナ・リー氏によると、格付けは様々な分野にまたがる高度な技術計算を伴うため、企業にとって有益であるとのことです。「埋立地の酸化係数から、調理用コンロに使われる非再生可能バイオマス、森林プロジェクトの地理空間に関わる専門知識に至るまで、非常に高い専門性と変動性が要求されます」と同氏は述べます。
「企業が行うべきことは、このような各機関の役割を理解するよう、学習することです」とCalyxl社の同氏は続けます。「何もしないことが最大のリスクだと思います」。
炭素クレジットの信頼回復の傾向を示す兆候が表れつつあることは、有望な状況です。2024年9月のMSCI炭素市場調査によると、償却クレジットは信頼性の高いプロジェクトへと移行しています。さらに、新たな開発中プロジェクトの信頼性も概ね高まっているようです。[3]
「課題はありますが、着実な進歩が見られます」とオズボーン氏は言います。「品質評価の改善やクレジット活用能力の向上、さらには、将来的にVCMの活用を検討する規制当局の増加が見受けられます」。
企業がVCMへの参加に積極的な姿勢を見せていることも朗報です。シェル社が最近実施した調査では、回答企業の65%が、自主的なカーボン・オフセットを排出量削減目標の達成に不可欠な手段と捉えています。
「企業は取り残されたくないのだと、強く確信しています」とIETAのエイブラハムズ氏は述べます。「多少のリスクを負ってでも、まずは実際に踏み出し、取り組み方を模索する方が、傍観者の立場に甘んじるよりはるかに有益です」。
行動の実践
確かに、ここ数年はVCMが完璧ではないことが明らかになりました。しかし、このような後退により、市場を再評価し、再設定する絶好の機会を得ました。
「このような市場調整の大半は、実際には健全なことです」と、Calyx社のリー氏は言います。「市場の成熟、さらなる改善と成長のためには必要なプロセスなのです」。
むしろ課題がイノベーションを促進したのだと、IETAのエイブラハムズ氏は述べます。
保険商品、ブロックチェーン、ドローン、LiDAR(Light Detection and Ranging)などの例を挙げながら、「誰もが現状に満足していれば、同程度までのイノベーションは望めなかったでしょう」と同氏は指摘します。
2025年は、各国が国別削減目標を発表し、2020年の前回ラウンドからの進捗が評価される節目の年となります。
さらに、パリ協定第6条の下、各国が温室効果ガス排出削減に向けて自主的に協力を進めれば、ボランタリー炭素市場における規制の整合性が強化され、監視が厳格化される可能性もあります。
ボランタリー炭素市場が発展し、信頼性を維持しつつその影響力を最大限に高める取り組みを継続する中で、移行の実現に必要な削減規模を達成する可能性は大いにあります。
「今日、行動を実践できるのであれば、炭素クレジットは、即実行できることです」とシェル社のオズボーン氏は言います。「今日起こす行動は、極めて大きな可能性を秘めているのです」。
(1) 炭素クレジット:ボランタリー市場の拡大 | マッキンゼー
(2) Frozen Carbon Credit Market May Thaw as 2030 Gets Closer: MSCI Carbon Markets
(3) State of Integrity in the Global Carbon-Credit Market: MSCI Carbon Markets
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