イーシャ・ヴェダンタムは、むくんだ足をなんとか靴に押し込もうとしていました。イーシャは、歩くのも話すのも大変なほど身体が非常に弱っており、豊かに波打っていた髪の毛も抜け落ちてしまっていました。
イーシャは19歳になって間もない頃に、全身性エリテマトーデス(SLE)と診断されました。その後新たにあらわれた症状のことを両親はとても心配したので、イーシャをすぐ病院に連れて行きました。そして、イーシャはループス腎炎と診断されました。その時すでにイーシャの腎臓は著しいダメージを受けていて、免疫抑制薬の投与が開始されました。
「ループス腎炎がどんなものなのか、私は知りませんでした。SLE患者の50%において臓器 に影響が及ぶ可能性があることを知ったときはショックでした」とイーシャは言います。「それまで、誰もそのリスクについては教えてくれなかったのです」
こうしてイーシャの生活は一夜にして変わりました。大学生として若者らしい生活を送っていたイーシャは、新たな病と日々闘うことになりました。食べ物の原材料や、症状を引き起こすリスクに注意を向けなければならなくなり、長時間立っていられなくなりました。人混みの中では感染症にも気をつけなければならなくなったのです。
COVID-19と日常の診療の混乱
COVID-19のパンデミックは、全世界で非常に多くの人々の生活を混乱させました。免疫系が自身の組織を攻撃する慢性かつ完治が難しい自己免疫疾患であるSLEとともに生きる人々も例外ではありませんでした。COVID-19の蔓延などにより、多くのSLE患者は診療の予約や最適な治療の機会を逃しました。医師は、パンデミック以前と比較すると、SLE患者の臓器障害が増えたと報告しています。
リウマチ専門医、腎臓専門医、内科医(648名)を対象に実施されたGSKの国際調査によると、半数を超える(57%)医師が、SLE患者の一部がCOVID-19の感染の可能性を恐れて対面での診察を希望しなかったと報告しています。診察の回避はこうした患者にとって重大な結果をもたらした可能性があり、この調査でも、パンデミック中に担当している患者の約4分の1(23%)にSLEの再燃や重篤な臓器障害の発症が増加したという回答が得られています。SLEの再燃により、臓器障害のリスクは2倍近くになります。i
「SLE患者が、COVID-19に感染することを恐れて対面での診察を先延ばししたのは無理もないことです」とスペインのビトリア・ガステイスにあるアルバ大学病院のリウマチ専門医であるジェイミー・カルボ・アレン博士は説明します。「COVID-19の影響の全容についてはデータをさらに収集する必要がありますが、私の経験上、治療の遅れは症状の再燃やコントロール不良な症状の原因になる可能性があり、治療を受けていれば回避できたであろう疾患の進行や臓器障害のリスクを高めた可能性があります」
GSKの調査によると、一部の医師は、SLEに関連した臓器障害のリスクについて、SLEの診断から1年経過するまで話さないか、臓器障害の臨床兆候(つまり、不可逆的な臓器の障害がすでに発生している可能性がある)がみられるまで話をしないそうです。このレポートは、100か国以上の7,000人を超えるSLE患者に対して実施された世界ループス財団事務局(World Lupus Federation: WLF)による調査(2022年)に基づいており、患者の56%が、主治医は診断時に臓器障害について話さなかったと報告しています。
イーシャは、自身の治療にもっと関わり、どのような治療も積極的に受けるようにすることが最大の教訓だと言います。
「用語や方針が分からないときは質問しましょう」と、イーシャは言います。「自分が受けているすべての治療に関心を持ってください。なぜその治療を受けているか、何が起こっているのか、その治療を受けた結果どうなるのかを理解してください」
多くのSLE患者に臓器障害がみられるにもかかわらず、コミュニケーションのギャップがいまだ存在している
腎臓、心臓、目、脳神経の障害は、SLEの重大な臓器障害の原因となり、生活の質(QoL)と医療費に影響を与える主要な要因がある可能性があります。ただし、臓器障害に関する対話がないと、臓器障害の発症を防ぐための医師と患者の連携が難しくなります。さらに、「現在症状がないSLE患者のリスクについて過小評価している医師もいます」とカルボ・アレン博士はこう続けます。「患者は、はっきりとした症状があらわれていない場合であっても、SLEの潜在的な炎症が内臓に障害を与えるリスクについて理解しておく必要があります。場合によっては、こうした臓器障害のリスクを考慮して、具体的な症状の有無にかかわらず治療を継続しなければならないからです」とのことです。
SLE患者を対象としたWLF の調査によると、患者の87%が1つまたは複数の臓器がSLEの影響を受けていると回答しており、そのうちの半数以上(53%)がSLEが原因の臓器障害のために入院していると報告しています。重要なことに、こうした患者の42%が不可逆的な臓器障害を抱えており、これには、腎臓に対する不可逆的な障害を報告している患者の17%も含まれます。腎臓の炎症はループス腎炎とも呼ばれ、診断後5年以内にSLE患者の半数に発症しますが、多くの場合、この病気は治療可能であり、早期に発見すれば安定を維持できる可能性があるとカルボ・アレン博士は説明します。
世界ループス財団事務局のコミュニケーション担当バイスプレジデントであるマイク・ドネリー氏は、早期のうちに患者と医師が対話することの必要性を強調します。「多くの医師は、臓器障害のリスクについて、手遅れになるまで話さないのです」とドネリー氏は言います。「SLE患者は『一見大丈夫そうに見える』かもしれませんが、この病は患者の臓器にダメージを与え、長期的な合併症と影響の原因となります」
臓器障害に積極的に対処する
SLEにはまだ明らかになっていない点があり、症状も患者によって実にさまざまです。さらに、GSKの調査に回答した医師の多くが、臓器障害が発生するリスクが非常に高い患者を判別するのは難しく、そのために治療が複雑になっていると述べています。 医師の多く(72%)によると、抗マラリア薬、ステロイド、免疫抑制薬といった現在の標準的な治療法は、多くのSLE患者の長期にわたる臓器障害のリスクを十分に低減できると考えているそうです。しかし、調査結果によれば、こうした標準的な治療法では臓器障害を予防できない患者も相当数いるとのことです。ii、iii、iv、v WLFの調査によると、一部の患者は自分の担当医師から、ステロイドが臓器障害の原因である可能性について一度も聞かされていないと述べています。
このGSKの調査の分析結果は、選択できる治療に関する情報量を増やすことで、医師と患者が、長期的な治療目標と、早期に症状を緩和する必要性のバランスを取れる可能性を示唆しています。調査に参加した医師の多く(79%)は、疾患修飾薬(病気の進行を止めたり、低減するための治療)の不足により、SLEの治療が困難であると回答しています。一方、別の研究では、炎症を起こすプロセス根源を標的にする生物学的製剤などの疾患修飾薬によって、SLEの症状を制御できると示されています。vi
臓器障害に関する対話を先延ばしにする医師がいることから、SLE患者自身が診療時に率先して臓器障害の話題を出すこと、そして、臓器障害について対話する最適なタイミングは、患者が新しい治療を開始するときだと、カルボ・アレン博士は提案します。
イーシャは言います。「自分自身の健康をコントロールすること、そして、主体的に自身の治療と向き合うこと。これが、私が最もお伝えしたいアドバイスです。」
イーシャ・ヴェダンタムは実在するSLE患者さんです。
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