メルセデスの快進撃で、9月のF1シンガポールグランプリ(シンガポールGP)を待たずにシーズンの覇者が決まってしまう可能性がでてきた。 終盤までに大勢が決してしまうシーズンでは、主催者はどのようにイベントを盛り上げることができるのだろうか。
メルセデスは2019年のF1シーズンの開幕から8レースで全勝した。
ドイツの代表的ブランドを背負うチームは、今シーズン幕開けのオーストラリアグランプリからポール・リカール・サーキットでのフランスグランプリまで、つまりメルボルンからマルセイユまでの全レースで表彰台のトップを譲らなかったのだ。
至高のドライビングテクニックと見事な戦略の融合、そこに幸運まで加わる。モントリオールでセバスチャン・ベッテルを擁するフェラーリを退けたように、審判まで味方に付けたメルセデスは、ライバルたちを大きく引き離して、コンストラクターズチャンピオンのタイトルは目前だ。そしてルイス・ハミルトンの4連続、通算6度目のドライバーズタイトルも間違いなさそうだ。
昨シーズンの最終2レースまでを含めれば、過去10レース、メルセデスは他のチームに勝利を許していなかった。
メルセデスの快進撃を見ていると、全21レース中15番目となる9月のシンガポールGPまでには、シーズンの覇者は決まってしまうようにも思われた。
しかし、オーストリアグランプリが、F1への関心を取り戻すのに申し分のない結果で終わった。21歳のレーサー2人によるレース終盤のデッドヒートに、人々の目は釘付けになった。
予選ラウンドQ1での進路妨害により、ハミルトンはフェラーリのシャルル・ルクレールにポールポジションを譲ってしまう。そして、この若きモナコ人レーサーに、3カ月前のバーレーンで、初優勝を目前にマシントラブルで失速した悪夢を払拭することを許してしまったのだ。
69周目、ルクレールに対して、ハミルトンが猛攻をしかけた結果、勝利が確定するまで3時間の審議を擁したものの、最終的にチェッカーを受けたのは、レッドブルのホームサーキットで気合十分のマックス・フェルスタッペンだった。
以降に予定されているレースの主催者やプロモーターは、この結果に胸をなでおろしただろう。より拮抗した争いの方が、ファンを呼べると考えるのは当然だ。しかし、今年12回目を迎えるシンガポールGPにとって、それはあらゆる面で、さほど大きな問題ではない。
シンガポールGPの事務局長、マイケル・ロシュ氏は、シンガポールGPは常に、レースだけでなく、あらゆる人にとって素晴らしい体験となるものにすべく挑戦し続けてきたのだと語る。
「私たちはシンガポールGPを、誰でもが楽しめる、幅広い分野をカバーするライフスタイル・イベントだと考えています。子供から若者たち、その両親、そしてさらにその親たちも、来場すれば何か楽しめることを見つけられる、そういうイベントを目指したのです」
コンサートの主役として、エレクトロニック・ダンス・ミュージックのDJ・スウェディッシュ・ハウス・マフィア、ファットボーイ・スリム、さらにロックバンドのミューズとレッド・ホット・チリ・ペッパーズ、ポップスターのグウェン・ステファニー、レゲエの重鎮トゥーツ・アンド・ザ・メイタルズ、そして映画音楽の大家ハンス・ジマーまでが顔を揃える。
サーキットパークでは、マジシャンのトロイ、スコットランド出身のバンド、テキサス、ルーツロックデュオのラーキン・ポー、コンゴ発のバンドであるジュピター&オクウェス、さらには米国人ラッパー、ラジャ・クマリが幅広い層の来場者を魅了する。
デロイト東南アジアで、スポーツビジネス部門と、東南アジア旅行、ホスピタリティ、サービス部門を統括するジェームス・ウォルトン氏もロシュ氏の意見に同意している。
「あるチームが仮に一強状態となっていても、シンガポールGPの集客にはほとんど影響がなかった年もありました。シンガポールGPは、卓越したエンターテイメント陣を揃え、正しくマーケティングを行い、適切なセールスを行えば、申し分のない特別な体験を来場者に提供できます」
ウォルトン氏は続ける。 「多くの来場者にとっては、シンガポールGPは、その年に観戦するただひとつのF1レースです。彼らはF1の枠を超えて、エキサイティングな体験、イベントを求めているのです」
これはシンガポールGPがレースという点で魅力を欠くという意味ではない。
F1シリーズの中で唯一のナイトレースであるということに加え、08年の初戦にフェリペ・マッサが給油ホースを装着したままピットを飛び出したという、今でも語りぐさとなっている出来事を始め、数多くの名場面がマリーナベイ・サーキットに刻まれてきた。
初めての雨のレースとなった17年には、マリーナベイ・サーキットのターン1で、4台を巻き込む多重クラッシュが起きている。
その結果、巻き込まれた4名のうちセバスチャン・ベッテル、キミ・ライコネン、マックス・フェルスタッペンの3人がリタイアしてしまった。
08年以来、毎回セーフティカーが出動する要注意箇所では、各チームは入念に戦略を練り、警戒を怠らない。
シンガポールGPを成功に導いてきたのは、座席数の決定から、最上のホスピタリティとエンターテイメント体験の構築までの、ダイナミックで発展的なプロセスだ。
ロシュ氏が最初に起用したのが飲食関係のディレクターだったことは偶然ではない。
「私たちは様々なイベントを手掛けてきましたが、飲食の提供はとても重要です」
ロシュ氏は語る。
「最初から、ディレクターのエクレストン氏に、ホスピタリティはすべて任せてほしいと伝えていました。そしてすべての価格帯で期待以上のものを届けようとしたのです。パドック・クラブに出店した各レストランでは、平均1万皿を想定しました。NOBU、ロックプール、COMOキュイジーヌの3つのレストランで3万皿です。さらにそれ以外のホスピタリティも充実させました」
さらに、とロシュ氏は説明する。
「私たちは最高のシェフやホテルを調べ上げました。そしてより素晴らしい体験を来場者に提供するために、あらゆる事業が結び付けられるイベントを作り上げたのです」
今年の主要レストランリストには、ヘストン・ブルメンタルの率いるザ・ハインズ・ヘッド、松下信幸の率いるNOBU、ニール・ペリーのロックプール、そしてシェリル・コーによるCOMOデンプシーとTARTEという錚々たる名店が並ぶ。
ウォルトン氏は、シンガポールでのエンターテイメントとF1レースの組み合わせが極めてユニークで、レースの動向にかかわらず、高い集客率を維持するのに大いに寄与していると分析する。
「毎年、シンガポールGPはエンターテイメントの要素をきわめて慎重かつ巧みに組み合わせて、来場者を楽しませています。これにはその他のF1レースの主催者も追従する姿勢を見せています。つまり、彼らのイベントにも、シンガポール同様の切り札を作ろうとしているのです」
ロシュ氏にとっては変革が鍵であり続ける。
彼はリバティ・メディアが新たにF1のオーナーになったことが新風を吹き込んだと語る。
「リバティ・メディアはブランドをリフレッシュして、私たちにより多くの機会を提供してくれました」
ロシュ氏は一例として、デジタルメディアへの移行を挙げた。
「それまでは、伝統的な広告やマーケティングにあまりに大量に予算をつぎ込んでいたのです。しかし、新たなメディアを使うことで、私たちは若い人たちにシンガポールGPを訴求できるようになりました。これは極めて有効な施策でした」
このようにシンガポールGPでは、現状に満足せず、前年を超えるイベントを作り上げることが追求され続けている。
「どんなに素晴らしく、称賛を受けたものでも、前年と同じことを繰り返せばもう終わりです。人々は去年のほうが良かったというでしょう。だから常に変化し続けなければならないのです」 とロシュ氏は語った。
シンガポールGPを既に11回も開催したというのに、常に変化し続けるという方針は変えない。
今年、シンガポールGPは、レースとコンサートのVIP体験を提供するThe Cubeを初めて導入する。パダン広場に設けられる3階建ての観覧席だ。
このチケットの購入者は、コンサートを特別席から鑑賞することができるだけでなく、レースの観戦やエンターテイメントを満喫できる。
さらにシンガポールF1パドック・クラブでは、新設されたアッパーデッキで、高級料理に舌鼓を打ちながら、レースを間近で観戦することが可能だ。
そして3千平方メートルの広さを誇る、最先端のホスピタリティ施設Twenty3 ではマリーナベイ・サーキットの最終コーナーを見渡すことが可能だ。3つの新たなレストラン、ウィスキーを中心としたバー、そして洒落た2階建てのナイトクラブ・アペックスラウンジなどのサービスにより、ミシュランの星付き料理だけではない、新次元の体験を心から楽しめるのだ。
「シンガポールGPが、パーティもレースも完璧にやってのけることは疑いようがない」
F1シリーズで唯一のナイトレースの感想について質問された元F1ドライバーで、現レースコメンテーターのマーク・ブランデル氏の回答だ。
このコンテンツはSingapore GP Pte Ltdのスポンサーにより制作されたものです。




